親の将来や不動産の管理について検討するとき、「家族信託」と「相続」のどちらを選ぶべきか、迷う人も少なくありません。どちらも財産を次世代へ引き継ぐための仕組みですが、目的と役割は大きく異なります。特に認知症リスクへの対応や、不動産の売却・管理を柔軟に行いたい場合は選択を誤らないことが重要です。本記事では、家族信託と相続の違いを整理し、それぞれがどのようなケースに適しているのかをわかりやすく解説します。
1. 家族信託とは?
家族信託とは、財産を持つ人(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産管理や運用を任せる仕組みです。財産の所有権は受託者に移動しますが、利益を受け取る権利は委託者(または指定された受益者)が持ちます。
- 委託者:財産を預ける人(例:親)
- 受託者:財産を管理・運用する人(例:子)
- 受益者:財産から利益を受ける人(例:親)
法律上の仕組みはしっかりしており、認知症対策として近年注目が高まっています。
2. 相続とは?
相続とは、死亡した人の財産や権利義務を、法律に基づいて相続人が引き継ぐ制度です。相続発生後に遺言書や遺産分割協議によって財産を分けることになります。
- 相続開始=死亡時
- 財産の管理は原則として相続人全員の合意が必要
相続は死亡後に初めて動き出す仕組みであり、生前の財産管理や認知症リスクには対応できません。
3. 家族信託と相続の根本的な違い
両者の違いを表にまとめると次の通りです。
- 家族信託:生前から財産管理を任せられる
- 相続:死亡後の財産承継を決める制度
つまり、家族信託と相続は「どの段階の問題を解決するか」が決定的に異なります。
4. 家族信託のメリット
家族信託は次のような場面で非常に有効です。
- 認知症になっても財産管理や不動産売却をスムーズに行える
- 複数の不動産や資産を一元管理しやすい
- 親の介護費用として柔軟に資金を使える
- 遺言書では難しい「二次相続以降」の承継先も指定できる
特に認知症は最大のリスクで、判断能力を失うと不動産売却や契約行為ができなくなります。家族信託ならそれを避けられる点が大きなメリットです。
5. 家族信託のデメリット
万能ではなく、注意点も存在します。
- 初期設計が複雑で専門家のサポートが必須
- 信託財産の使い道に制限がある場合がある
- 親族間の信頼関係が前提となる
- 相続税の節税効果は直接的ではない
生前に全てを自由にできるわけではないため、目的を明確にしておく必要があります。
6. 相続のメリット
相続にも明確な長所があります。
- 制度がシンプルで分かりやすい
- 公正証書遺言を作ればトラブルを防ぎやすい
- 税制上の特例(小規模宅地・配偶者控除など)が豊富
相続税対策や死亡後の財産分配を明確にしたい場合には、有効な仕組みです。
7. 相続のデメリット
相続の問題点としては以下が挙げられます。
- 認知症になると財産管理が一切できなくなる
- 不動産売却に相続人全員の合意が必要で手続きが複雑
- 遺言がないと家族間で揉める可能性が高い
生前対策としては不十分な点が多く、この隙間を埋めるのが家族信託です。
8. どちらが適しているか?目的別に判断
最後に、ケース別でどちらを選ぶべきかを示します。
● 認知症対策をしたい → 家族信託が最適
判断能力を失っても財産管理や売却が可能。
● 死後の財産分配を確実にしたい → 相続(遺言書)
法的効力が強く、手続きがスムーズ。
● 不動産が複数あり、柔軟に管理したい → 家族信託
● 節税効果を期待したい → 相続の特例を活用
● 家族間の争いを避けたい → 公正証書遺言+必要に応じて家族信託
9. まとめ:生前対策か、死後対策かで選ぶのがポイント
家族信託と相続は、どちらが優れているかではなく、目的と状況に応じて使い分けるものです。生前の財産管理や認知症リスクへの備えには家族信託が適しており、死後の財産承継を確実にしたい場合は相続(遺言)が力を発揮します。両者を組み合わせることで、より安全かつスムーズな財産承継が可能になります。家庭の状況に合わせて最適な方法を選び、早めに対策を進めていきましょう。
